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日本人が日本人たる血・・・「火怨・北の英雄 アテルイ」 [読書]

「東の夷の中に、日高見国有り。その国の人、男女並に椎結け身を文けて、人となり勇みこわし。是をすべて蝦夷という。また土地沃壌えて広し、撃ちて取りつべし」
-日本書紀の景行天皇条 陸及び東方諸国を視察した武内宿禰の報告。

非上場で有名な某洋酒メーカーが、傘下の企業を上場させる予定だという。時価総額は1兆円規模、上場で得られる資金は約5000億円にものぼるとみられるそうだ。

とてつもない金額だ。

ちなみに中核企業は創業家一族が株式の9割以上を保有している、オーナー企業だ。

最近では商品紹介ページにおいて日本海を“韓国 / 東海(日本海)”と表記して大騒ぎとなったが、私がこの会社について別の、ある出来事を思い出す。

80年代の話だ。

当時、首都移転についての議論が盛んに行われていて、候補地の1つに東北の地方都市が名乗りをあげていた。
当時、同社創業家一族の社長が、テレビの討論の中で、この件についてこう語った。

「仙台遷都などアホなことを考えてる人がおるそうやけど、(中略)東北は熊襲(くまそ)の産地。文化的程度も極めて低い」

この発言により、東北地方で同社の不買運動が起こった。

おそらく、この社長にとってこの発言は本心だったのだと思う。ついうっかり、で出るような言葉ではない。ちなみにこの創業一族は関西の人間。我らこそが大和、本来の都である、という考えがあるのかもしれない。

ちなみに、発言の中にある熊襲というのは、間違いである。熊襲は九州、東北であれば蝦夷(えみし)だろう。どちらも、かつてヤマト朝廷と戦った人々だ。蝦夷からヤマトに攻め込んだわけではない。一方的に簒奪されたのだ。それなのに千年たってもこんな言われ方では、無念この上ないだろう。

一方的に簒奪、とは書いたが、蝦夷は奪われるだけではなかった。限られた兵力で、何倍もの軍隊を追い返したりもしている。

その蝦夷たちのリーダーとして活躍した人物に、英雄、阿弖流為(アテルイ)がいる。蝦夷たちをひきいて、なんども朝廷軍を撃退した。自分たちの何倍もの大群を撃退したのである。

やがて朝廷は、坂上田村麻呂を征夷大将軍として投入する。

そして・・・。

このアテルイの物語が来年NHKでドラマ化されるらしい。
・「火怨・北の英雄 アテルイ伝」

この原作は東北出身の作家・高橋 克彦氏による「火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)」だ。

火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫)

  • 作者: 高橋 克彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/10/16
  • メディア: 文庫


高橋克彦氏は岩手出身であり、かつて別の作品で、登場人物に次のようなセリフを言わせていた。

「愛国心が失われたからだよ。中でも東北が一番悲惨だ。明治以来このかた、特に虐げられてきている。戦争でも常に前線に送られ、東北の生まれを隠そうとする人間までいる。東北出身で得をすることはほとんどない。これでは日本への愛国心どころか、生まれ故郷への愛着もなくなって当たり前だ。かつての栄光を、東北の人間が信ずれば……」

最近、“日本って素晴らしい”関連の本をよく見かける。
日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)
日本人が世界に誇れる33のこと
日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか (PHP新書)
日本人が世界に誇れる33のこと
日本人こそ知っておくべき世界を号泣させた日本人
なぜ世界の人々は「日本の心」に惹かれるのか

「最近、色々なことがあって日本は大変だけれど、本当はすごいんだよ」ということを教えてくれる。

そして、それは郷土も同じだ。東北には誇れる歴史がある。

ちなみに、私は蝦夷の子孫でもなければ、東北に住んだこともない。
そして、高橋克彦氏は岩手のご出身だが、蝦夷の末裔というわけではないらしい。

このあたりはかなり複雑で、囚われた蝦夷たちは俘囚として全国に散らばっているし、反対に、東北以外に住んでいた人達も、兵として、あるいは開墾者、移住者として、時に強制的に住まわされたりしている。

つまり、東北に住んでいようがいまいが、私たちの血の何分の1かは、蝦夷の血が流れている可能性があるのだ。

この血は、中国人や朝鮮人との違いでもあり、日本人が日本人たる血でもある。
(ちなみに、人気のある坂上田村麻呂は、実は遡れば渡来系だったりもする)

とまぁ、色々とグタグタ書いたが、この火焔・アテルイはぜひ見て欲しい。

私は小説を読んだが、これは感動する。

上下巻ありボリュームもそれなりにあるが、量はまったく苦にならない。時代を駆け抜けたアテルイたちに思いを馳せ、ページをめくる手が止まらない。

読んでいる当時、仕事が忙しかったこともあり、上巻を読み終えたところで下巻を読むかどうか迷った。少し間をあけようか、もう少し暇になってから読もうかと。しかし結局はすぐに手をつけてしまい、下巻は上巻以上のスピードで読み終えてしまった。

私たち日本人の源流にふれる名著である。

この冬、ぜひ読んでみることをお勧めする。
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